真横の写真はつまらないと言えるのか

飛行機の写真の撮影方法は様々なものがあると思いますが、私にとっての基本は「順光真横」のスポッターショットです。ところが最近はスポッターショットに対して、「つまらない」「誰でも撮れる」などと平然と言い放つ方が多々いらっしゃるようです。なぜ真横の写真なのか、という部分も含めて、少し今日は書いてみたいと思います。

私が飛行機の写真を撮るようになったのは1990年のことです。持っていたカメラはニコンのFE2で、望遠も210mmが一番遠い状態。もともと鉄道を撮影していたので、この程度のレンズしかありませんでした。一応フィルムを自動で巻き上げるモータードライブはついていましたが、ピント合わせは手動、露出も手動でした。もちろん手振れ補正なんて便利な機能はありません。
一方、現代のデジタル一眼レフは、ピント合わせ、露出も自動で決めてくれますし、ミラーレスやコンデジに至っては見たままの画像がそのまま記録されます。
この違いはどこに出てくるか、と言うと、「カメラを持って最初に撮る写真」です。実際に今のカメラで試して頂けると分かりやすいかと思いますが、モード「M」で、ドライブを「シングル」、オートフォーカスオフ(MF)、手振れ補正オフ、ISOは100もしくは400に固定で撮影してみれば、当時のカメラで撮れる限界が分かるはずです。

さて、そんな条件で、高速で動く飛行機を撮影するのはかなり難しいことになるので、一般的に撮影される写真は、タキシング中のゆっくり動く機体か、プッシュバック終了後のトーイングカーが外れた機体か、いずれにせよ動いていないもしくはゆっくり動いている機体のみ、ということになりました。動いている機体に対処できるのはオートフォーカスが本格的に普及してからになりますが、それでもオートフォーカスの性能は今のカメラとは比較にならず、今も時々古いフィルム一眼レフで撮影しますが、晴天の日中でもピンが合わない、なんてことはザラに発生します。

飛行機写真、特に民間機の写真の本場は、私はヨーロッパだと思っています。今は北米やアジア諸国にも撮影する人がそれなりに居ますが、私が始めた頃は、アジアでは日本以外では全くと言っていいほど撮影する人はおらず、アメリカも人口が少なかったです。ヨーロッパの人たちの中には、「50mmレンズを使ったランプショットで、順光真横、使用するフィルムはコダクローム限定」というものすごく厳しい方々が多数おられました。さすがにこれ、空港勤務の方でないと難しい条件になるのですが、一方で「スライドで撮影」「真横順光」程度の方もそれなりにおられました。逆にネガで撮影していると、「ポジ(スライド)で撮ってほしい」と言われることも多々ありまして、現在で言うと海外サイトに投稿するような人は、当時ポジを使っていた、と言っていいでしょう。
ヨーロッパの基準が世界の基準たる部分でもあったので、当時はだれもが真横の順光ショットが撮影できることが最も良い条件でしたし、おそらく今でもその条件を守って撮影している人は多数います。Airliners.netの写真を適当に1000枚くらい見たら、2-3割はこの手の写真が占めていると思います。

さて、そんな状態に少し変化が出てきたのが、オートフォーカスです。1985年にミノルタ(現在はカメラ事業はSONYに売却)がα7000というオートフォーカスカメラを出してから、メーカーはこぞってオートフォーカスカメラを市場に投入。ピント合わせの精度はともかく、今までだったら追い切れなかった離陸機などが実際に追えるようになってきます。ただ、真横の写真はこの時代においてもまだ主流で、そのあたりのシフトが進むのは、さらに時期が経ってから、ということになります。
また、このころから自動露出(プログラムAE、絞り優先、シャッター優先など)が標準で装備されるようになってきます。一方でプロが使うようなカメラには、絞り優先とマニュアル以外ついていないことが多く、どちらかと言うとカメラ初心者向けの機能として、これらは存在していた感があります。

さらに時代が変化するのは、ここ10年ほどではないかと思います。まず、デジタル一眼レフがレンズキットで10万円以下で手に入るようになったこと。そして、ピント合わせの精度が年々向上していること。自動露出の精度も向上してきたこと。撮影がフィルムからセンサーに変わり、センサーの性能が年々向上してきたこと。
これによって、今まではとても追い切れなかった離陸機などの撮影ができるようになり、また夜間の撮影もセンサー感度の劇的な改善により、目に見えていない風景すらカメラがとらえてくれるようになりました。さらにソフトウェアについても改善が進み、これに拍車をかけました。
そうなってくると、「順光真横」をありがたがるどころか、「誰でも撮れる」「つまらない」という発言が平然となされるようになってきた訳です。

しかし、本来なぜ順光真横の写真がこれまで重視されてきたか、ということですが、基本的に飛行機の写真を撮影することは二次的なもので、本来は登録番号等を記録する「スポッティング」にあったのです。その記録をしていく上での「順光真横(場合によってはグランドレベルの障害物なし50㎜)」だった訳です。
ところが、こうして時代が変わってくると、「誰でも撮れる」「つまらない」と真横の写真を撮影することを見下す人ほど、「私はスポッターです」と言う矛盾した発言が出てくる訳です。順光真横のショットを撮影していたとしても、もしその撮影した写真に、日時、機体の所属、登録番号と正確な形式の記載がない場合は、スポッターとは言えない、という結論になります。そういう方は「フォトグラファー」と名乗るべきでしょう。

真横の写真を「つまらない」と言っている人がここを読むことはないでしょうが、ご自身の発言と撮影された写真、それに付随するデータを一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*