Iranian Skies 2016(番外編・どうしてもSPに乗るためにイランへ)

帰国して1か月。写真を見せたり、お土産を配布したり、一緒に行った人たちと「反省会」と称した飲み会をしたりしていましたが、そんな様子を見たうちの嫁様が、「私もイランに行きたい」と言い出しました。行けるとしたらゴールデンウィークしかありません。ゴールデンウィークのチケット争奪戦に参加しなかったので、ここからチケット探しを含めしないといけなくなりましたが、せっかくなので企画だけしてみようと、あちこちに聞いて回りました。
条件としては、
(1)B747SPに乗れなかったので、イラン航空のクアラルンプール-テヘラン便を使う
(2)テヘランでスポッティングはしない
(3)観光重視
ということになり、イラン航空のチケットは、K先生に聞いたところ、快く代行手配していただきました。4/30のIR815でテヘランに入り、5/3のIR814でテヘラン発のプランにし、現地は3日しかないので、カシャーン、イスファハン、テヘランでそれぞれ1日ずつ。イスファハンからテヘランの移動は、前回乗れなかったタバンエアに乗ることになり、行程は完成です。
ビザの手配とホテルの手配は、イラン航空のB747のコパイさんのGさんにお願いしました。

日本からクアラルンプールのチケットは、ゴールデンウィークということで異常な値段になっていましたが、1日日程をずらすだけで、キャセイパシフィック航空の関空~香港~クアラルンプールが格安で手に入りました。

これで日程は完成、そしてキャセイに乗って香港経由クアラルンプールへ、クアラルンプールで2泊した後、テヘランに向かうイラン航空に乗ることになります。この組み合わせ、ある意味私にとっては究極に近いベストセレクションです。

クアラルンプールまでのキャセイは、いつものホスピタリティにあふれるサービスで、快適にクアラルンプールに到着。現地で2泊した後、前回と全く同じコースをたどります。

当日、ホテルをレンタカーで出発し、RW32Lの撮影ポイントへ。この日すでにB747SP-86、EP-IACがクアラルンプールに向かっていることは確認できているので、あとは撮影するのみ、です。幸い前日土砂降りの雨が降ったせいなのか、この日の天気は良く、快晴の条件で撮影できました。

さて、撮影したので車を返してイラン航空のチェックインを済ませる必要があります。KLIA 1のレンタカー屋で車を返却し、ターミナルまで徒歩で向かいます。イラン航空のチェックインカウンターは一番端のAのカウンター。すでに長蛇の列ができていました。

尤も、家族やグループが多く、大半がイラン人の乗客です。すると、イラン航空のクルーがやってくるのが見えました。この日の機長はベテランのKさん、コパイはGさんのお友達のSさんと聞いていました。しかも、先頭は2月の旅行の往路、日本語で話しかけてきたシニアパーサーのMさんではないですか。嫁に荷物を預け、大急ぎでご挨拶に。Mさん、私の姿を見てさすがにびっくりしていました(^^;)。そして、Mさんとあいさつしているうちに、後ろからやってきたのは、2月の復路便のチーフパーサーのMAさん、そしてK機長とコパイのSさんもやってきて、早い話がクルーの責任者クラス4人とすでに知り合いという、ある意味恐ろしいフライトになってしまいました。

さて、クルーの皆様とは「それでは後ほど機内で!」と別れまして、我々もチェックイン。すでにチェックインがかなり進んでおり、4人掛けの通路と真ん中しかない、とのことでしたので、その席をもらいました。後ほど乗ってみて確認すると、Dコンパートメントの前方席でした。

出国審査を済ませて、途中でマレーシア航空のレトロ塗装のB737-800と、ナスエアのA330が居たので、これだけ撮影してゲートへと向かいます。ゲートではB747SP、EP-IACが私たちの搭乗を待ってくれていました。
機内に入ると、チーフパーサーのMAさんが私たちを見てにっこり。前回は怖い顔をしていましたが、今回は前回のフライトで打ち解けてしまったので、真逆になっちゃう訳ですね。そして後方Dコンパートメントの自席に座り、出発を待ちます。

出発前にMさんが私たちを見つけて声をかけてくれました。離陸後後方のクルー用に取ってある2人掛けの席を使っていい、とのことで、お言葉に甘えさせていただくことにしました。とりあえず出発まではこの席に座っておくことにします。

13:29、ドアクローズ。実は私、B747にはさんざん乗ってますが、SPに乗るのは初めてだったりします。本当に最後の最後でSPに乗れて、感動もひとしおです。13:37、プッシュバック開始。プラット&ホイットニーのJT9Dのエンジン音が響きます。個人的にはジャンボ=このエンジン音で、前回のEP-IAIのジェネラルエレクトリックのCF-6よりもなじみがあります。ほぼ同時にキャビンアナウンスが入り、機長はKさん、テヘラン・イマーム・ホメイニー国際空港までの飛行時間は7時間5分とのこと。13:43、タキシーアウト。13:49、RW32Rに乗り、エンジン出力が上がって離陸滑走、エアボーン。50秒と滑走時間は長く、やはりSPもクラシックなんだな、ということがわかります。14:19、K機長の声でキャプテンアナウンスが入りましたが、ペルシア語なのか英語なのかも分からないくらい聞き取れず。14:23、シートベルトサイン消灯。

Mさんがやってきて、「席移っていいよ」とのこと。早速席を移動して窓の景色を楽しみつつフライトをします。機内食のサービスの時間になり、カートが回ってきました。チキンとビーフからのチョイス、ということで1つずつもらいましたが、見事にどちらもケバブでした(^^;)。見た目変わらないやないか(^^;)。

食事のサービスが終わってしばらくすると、チーフパーサーのMAさんがやってきました。「機長が今コックピット見せられるって言ってるけど、どうします?」とのことなので、喜んでコックピットに入れてもらうことにします。そして、コックピットに行っている間、荷物が心配だから、という理由でホマクラス(ビジネスクラス)の席を用意してくれる、とのこと。結局最後は「機内アップグレード」になってしまいました。イランはある意味「コネ社会」なので、今日みたいに4人も知り合いが居ると、コックピット見学を含め、様々なリクエストが通りやすいですね(^^;)。

前回はインフライトセキュリティの方があまりにコックピット見学のリクエストが多くて、後半へそを曲げてしまった、ということがありましたが、今回は私たちくらいに加え、クルーの知り合いだったので、かなりすんなりでした。セキュリティの方に「メルシ(ありがとう)」と言って中に入ります。
K機長、Sコパイと、FEはEさん、Kさんの4名乗務。巡航中で暇なので、「お茶を客室乗務員に持ってきてもらうよ」とのこと。私はコーヒー、嫁は紅茶をもらってしばし談笑です。前回のイラン旅行の話に始まり、K先生の話や、SPの退役時期の話などでさんざん盛り上がりました。ただ、その間インフライトセキュリティの方が立ちっぱなしになっていることも知っているので、適当な頃合いを見計らってコックピットを後にすることにしました。
ちなみに、この時にコックピット、客室双方のクルーが、「5月末」「6月半ば」「6月15日」など、ほぼあと1か月で退役になる、と言うことを言及していまして、実際に6月11日のIR815便を以て退役、となったようです。その後、「年末まで延長」と言う情報も飛び交っていましたが、やはり機体の老朽化は著しかったようで、8月からの運航再開は難しい、と聞いています。

ここで一息ついたので、SPの機内を一通り探検することにします。ちょうどコンパートメント1つ分が抜かれた格好になっているので、後方の座席から前方のドアまで見渡せるところが、通常のB747と違うところでしょうか。ちなみにB747SPは、B747-400と同じ性能に引き上げたBoeing747 Advanced Short Bodyと言うタイプも計画されたのですがこちらは現実にならずに終わってしまいました。

客室最後方にギャレーがあり、トイレがCコンパートメントとDコンパートメントの境界に設置されているのもSPならではでしょうか。後方ギャレーの責任者はMさんですが、仕事そっちのけで私の相手をしてくれています。ある意味キャセイのISMみたいですね(^_^;)。

Bコンパートメントは、左側にプレイヤールームと客席、右側にロングギャレーと言う配置になっています。プレイヤールームはイスラム教徒向けのお祈り専用室なのですが、こういうところはさすがイランの航空会社らしいところです。ただ、今やこの部屋もお祈り部屋よりもクルーがサービスで使うブランケットなどを放り込んでおく倉庫代わりになってましたが・・・前回の-200B、EP-IAIはルフトハンザから購入した中古機だったので、このプレイヤールームがないんですね。

Aコンパートメントはホマクラスの座席が22席設置されています。こちらは前回搭乗したB747-200Bと同じです。

さて、ここまで探検した後で、後ろのギャレーに行くと、Mさんが「待ってました」とばかりに話しかけて来ました。日本語の先生をして欲しいようです。日本語とペルシャ語の共通する表現だったり、「日本語でこういう場合はどう言ったらいいか」とかを教え、そのうち結構えげつない表現をお互いに教えてしまい、そして、私が以前から知っていたペルシャ語として「ヘンダワネ」と言ったら、「西瓜じゃないか。何でそんなの知ってるんだ」とか、ディープな日伊交流になりました。

この間に2回目の食事のサービス。サンドイッチとチョコレートだけの簡素なものでしたが、Mさんと話しているうちに食べ終わってしまいました。食器だけビジネスクラスになっているのが少しちぐはぐで、これもイラン航空らしいところです(^_^;)。

ついでにロングギャレーの写真を撮りたかったのでMさんにリクエストすると、喜んで案内してくれました。このスタイルのギャレー、日本の航空会社で採用したところがありません。KLMのB747などで、一部窓がつぶされているところは、このロングギャレーになっているのですが、イラン航空でも前回搭乗した-200Bには設置されていません。

席に戻ってしばらくすると、Mさんと、チーフパーサーのMAさんに呼ばれます。何事かと思って行ってみると、お二人とK機長、機内セキュリティが話し合い、着陸の間はジャンプシートに座っていていい、というオファーが。二つ返事で承諾し、「着陸予定時間の30分前からコックピットに入っていい」との許可をもらうことができました。つまり、過去の実績から「安全な乗客」という判断になったようです。こんなところもコネ社会のイランらしいですね。

到着30分前まではビジネスクラスのキャビンで過ごし、いよいよコックピットへ。ジャンプシートでの離着陸経験は、20年近く前にキャセイパシフィック航空で2回、他はインドネシアとフィリピンの航空会社で経験しているくらいで、B747では初めてです。しかもSPのコックピット、というおまけつきになりました。
シートベルトは3点式ですが、乗客ということで2点締めたら良い、ということになりました。今日はSコパイが操縦を担当、緊張したやりとりが続いていました。プレランディングチェックリストを読み上げ、高度計を確認。後ろに座るフライトエンジニアの方からは、計器の数値の読み上げがそれに続きます。

ヘッドセットは貸してもらえなかったので、無線交信については不明ですが、高度計を見ると6000ft表示、つまり約1800mです。およそ10分だな、と思っていると、4000ft表示で「One thousand」の声が。あれ?と思っていると、テヘランの街は標高約1000mに位置しているため、そもそもの高度が1000m、3300ft程度上乗せになるのでした。と言うことでまだ着陸しないと思っていた私は結構あわててしまいました。
17時55分、テヘラン・イマーム・ホメイニー国際空港のRW29Rに静かにランディング。ずっと乗りたいと思ってきたB747SPの初めてのフライトが無事終了しました。
着陸後もパイロットの皆様は結構忙しく、ランディング後の計器の確認とチェックリストの読み上げ、そして機体の地上滑走と続き、スイッチのON/OFFと言ったところもかなりいろいろとすることがあるようでした。A330やB777で体験した時は、ここまで操作が煩雑でなかった記憶があるので、やはり40年以上前に設計された機体と、現代の飛行機には、かなりの差があるようです。ある意味、イラン航空のパイロットは、昔のシステムを理解した上で、今後現代のシステムに移行して行かれることになる訳ですので、若手のコパイさんでも、きっとベテランパイロットと同じくらいの感覚をもたれているのかもしれません。

到着後、降機の準備をしなければいけません。コックピットクルーの皆様と、機内セキュリティの方にお礼を言ってアッパーデッキを降り、メインデッキへ。乗客としては最後に降機し、CIQへと向かいます。ビザの受け取りと保険の支払いをしていると、Mさんがやってきました。Mさんにちょっとしたお土産をあげると、大変喜んでもらえたようです。「次はテヘランで会いましょう」と言うと、「多分ね、インシャーアッラー」と言って去って行かれました。
イラン航空のB747SPのフライトはこうして幕を下ろしました。


さて、イラン旅行そのものはこの後も続いたのですが、こちらのブログの記事としてはこのフライトで終了にさせていただくことにします。
核開発だの経済制裁だの物騒なニュースが多い国ではあるのですが、一度行ってみると本当に良い国であることが分かります。さすがにこの記事の時に飛んでいた機体はかなり退役が進んでしまっているのですが、まだ古い機体も飛んでいます。悠久の歴史を持つ国、イラン。是非皆様も行ってみて下さい。

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