私が駆け出しだった1990年代前半。毎週月曜と木曜にやってくるイラン航空のフライトは、ボーイング747SPで運航されるフライトで、たまにシップチェンジがあると「長いやつ」、つまり747-100Bや-200Bがやってきていました。私は「長いやつ」には当たったことがなく、いつもSPばかりでしたが、何度か撮影していました。
紺色のチートラインに尾翼に「ホマ」、タイトルにペルシャ語と「Airline of Isramic Republic of Iran」と書かれているのが非常にエキゾチックな機体で、昨今ほどではありませんが、やはりイラン航空の747SPは人気がありました。
1994年夏の成田遠征で、久しぶりにイラン航空の747SPを撮影したコマが個人的に残っており、その機体はEP-IACでした。1977年5月にイラン航空にデリバリーされた機体で、当時17歳。そろそろ退役も近づいてくるかな、という頃の撮影でした。
その後、私も成田への定期遠征がなくなり、イラン航空とは縁遠い生活を送っておりました。一方で、イランを取り巻く情勢はどんどん悪化していき、イラン航空も北京経由で席があまり埋まらない状態で飛んでいる、という噂すら聞いていました。日本路線は2011年までで撤退してしまい、成田に行っても見られなくなってしまいました。
747SPも、4機のうち状態が良い機体のみが飛ぶという状態になっていて、2004年に北京で事故を起こしたEP-IACは長らくテヘランで他のSPの部品取りになっていたそうです。ところが、他の3機がどんどんフライトサイクルを重ねることになり、最終的にフライトサイクルの少ないIACをレストアする、ということになったようで、2009年、テヘランで重整備を受ける写真がネット上に出てきます。実に5年ぶりに空に戻ってきたのです。この時点で機齢は32歳。十分な老朽機であることは間違いないのですが、やはり経済制裁で新しい飛行機の買えないイラン航空にとっては、貴重な戦力だったのです。
レストアされたIACは現役に復帰し、最晩年はテヘランから北京、クアラルンプール、ムンバイの3路線に、ルフトハンザからやってきたEP-IAIと共に投入されていました。
2016年6月に最終運航を終了し、イラン航空の747の運航の歴史は幕を下ろしました。2018年に入り、テヘランのイマーム・ホメイニー国際空港からメヘラーバード国際空港へのフェリーフライトが行われましたが、その後の動きはありません。噂によると、博物館に入る、とのことでした。
一度瀕死の重傷を負いながら不死鳥のごとく復活したEP-IACは、最後の最後まで、イランと世界を結ぶ戦力として運用され続けた1機でした。